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FUTABA+のあかさたな

FUTABA+京都マルイ店の本と雑貨とそれ以外

5月30日 匂い 


昔、…印象深かったので、覚えているのですが、荒木飛呂彦の『ジョジョの奇妙な冒険』シリーズの、どれでもいいのでどれかの表紙を開くと、必ず作者の近影写真が一枚と、短い数行のメッセージ(近況報告のような)が付いていて、
その中の一つに、こういうのがあった。
最近自分は畑をやっていて、収穫したトマトの美味しさに感動した。そして気づいたことがある。スーパーで売っている野菜には、匂いがないということだ。きっと、この匂いを「くさい」といって嫌がる人達がいて、匂いをなくしているのではないか。でも、この「匂い」こそ、本当はとっても大事で、なくしちゃいけないものなんじゃないか。よし、自分は気をつけよう。
…と、そういう事が(うろおぼえで、すみません。『ジョジョ』シリーズは実家にあって、調べられませんでした。お持ちの方は、探してみて下さい)、書いてあった。
私がこの文章を思い出したのは、たまたま今日、森茉莉の本を手に取ったから。
久々に、数年ぶりに読む彼女の、濃密で、頑固で、口下手だけれども情熱的な、独特の語り口調に、目も耳もからめとられていく懐かしい感覚を味わいながら、
(ああ、そうだ。これは、荒木飛呂彦のトマトではないか)
と、思ったのだった。
私は、その「匂い」を再び記憶の彼方にやってしまうのは、惜しく、「匂い」を逃すまいとするように、そのままレジへと足を向けた。

今夜は、森茉莉『父の帽子』(講談社文芸文庫)の中の一編、「夢」を読みながら、眠りにつこうと思います。
(よ)